2月1日の日記


完膚無きまでに叩きのめされた前回の釣行。
当然、脳裏に焼き付いていた。
私は釣りを考える性質である。
しかしながら、多くのアングラーが持っている、基本的な知識や常識的な事を持ち合わせてはいないかもしれない。
誰かにきけばおそらく、一瞬にして分かる事も多い。
しかし、遠回りしても自身で体感する事。
それを信じたいと思っている。
次の休みまで指折りあと少し・・・。
いつもにも増して遠く感じた。



仕事に追われ、準備が整ったのは午前1時をかなり過ぎた頃だった。
仮眠はおろか、ゆっくりしている間も無いほどの過密プランである。
自宅を出てすぐに高速に乗る。
少し開けた窓から吹き抜ける風は、いつもにも増して冷たかった。
これは道路が凍結しているかもしれない。
矢野川峠の気温計はマイナス8度、何かあっても咄嗟に対処出来る速度でゆっくりと南下して行く。
現地到着は午前5時頃であった。



ポイントに向かう道中、街灯の下に車をとめ準備を整えて行く。
駐車スペースでは真っ暗でよく見えないからである。
防寒着を着込み、磯靴を履き、すぐに向かえる状態で車中にて夜明けを待つのだった。
車を降りたのは、遠くの空がうっすらと明るくなってきた頃。
必ず夜明けは来るのを確信していても、一人真っ暗闇の磯は恐ろしい。
先端まで急いで15分、タックルの準備に3分としても、十分間に合うはずである。
空が白々としてきた頃、ようやく磯に向かうのであった。



前回、ゆっくりと確かめながら進んだおかげで、暗闇の中でも迷いなく進む事が出来た。
おそらく、水温の加減であろうか、ここ最近のショアラインのジアイは午後から夕方にかけて来る事が多い。
しかし、何故にあえて朝一をプライムタイムと想定するか。
うまく説明は出来ないが、それも前回の釣行で感じた事だからである。
自身の直観が的外れならば、潔く皆が言う時間にかけてみれば良い。
間違いであれば、またその時点で修正をすれば良いのだ。
しかし、まずは自分に素直になりたかった。



タックルを準備しながら今日の海を見て行く。
ようやく、遠くの空が茜色に染まり出し、幾重にも複雑に絡む潮の流れが目に入ってくる。
海の一点をながめれば単調ではあっても、辺りを大きく見渡せば気になる箇所がいくつもあった。
残念ながらカメラは一点しかとらえられないが、雰囲気だけでもとシャッターを切ってみた。




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ここ最近では珍しく、まったくの無風がしばし続いていた。
おそらく、明るくなれば、釣り人のモチベーションを奪い去る様な凪の海が広がって見える事だろう。
凪の海が好きだと公言している私ではあるが、それは大きな波やウネリが無い状態を言うのである。
潮の流れは欲しいし、何より必要な、「風」、というものがある様に思う。
残念ながらこの日、そのどちらも殆ど無いのだった。
おそらく、おそらくであるが、唯一の時間は長くて30分、いや、おそらく15分も無いだろうか。
胸がムカつく様な緊張の中、Rock'n'RollFishingが幕を開けた。



まず結ぶルアーであるが、おそらくどなたも悩まれる事だろう。
まずはミノー、まずはポッパー、まずはジグ・・・等々。
釣り人の数だけ選択肢がある。
そんな私はポッパーが好きだ。
まだよく見えない中、少し目を離すと、見失いそうになるポッパーからあがる水飛沫。
操る手から生じるそれとは別に、突如として起こるスプラッシュ!!
たまらない瞬間である。

それには大きなロマンを感じるがしかし、海況によって選ぶのが自然な成り行きだろうと思う様になってきたのだった。
ミスポッピングが頻発する様な波の状態では意味がないと。
確実な理論は持ち合わせてはいない。
そこはフィーリングでチョイスしている。
今回、まず最初に結んだのは、オシア ポッピングベイト150Fである。
自身のアクションでは、そう大きなポップを生み出す事は出来ない。
それよりはむしろ、スプラッシュを上げながらも、時にミノーライクに、時にペンシルの様に操りやすい性質がとても気に入っている。



まずは気になる流れの中を通して行く。
まだ、十分な明るさが無いのでルアーがよく見えない。
勘を頼りにスローに探って行くのだった。
5投、10投と続けるが何も起きない。
はたして、自身が奏でる旋律が間違っているのだろうか・・・。
そんな不安にかられながらも、今日のヒットパターンを探してひたすらにキャストを続けるのだった。

ここでルアーを交換するのは簡単である。
はたしてそれが正しいか!?
チクタク、チクタクと終わりに向かって時間は流れて行くのだ。
考えている時間など無い。
自身が出した結論は、ルアーはこのままで行くであった。
ただし、大きく立ち位置を変えてみる。
残念ながら今、ここには奴らは来てはいない。
全くの思い込みに間違いないが、そう感じたままに動くのみ。
磯の上を走りながら、ここぞと思う流れを見つけ立ち止まった。
僅かながら、そこは沖からの風が吹いており、少しだけ潮が当たっている様に見えたのである。
もう残された時間はわずかだ。
ここにかけてみた。



2投ほどした頃だった。
激しくスプラッシュをあげ、一気に潜らせて速いテンポでトゥイッチを入れていた時である。
ルアーの後ろにモワモワと違和感が見てとれた。



きた!!!



前回の事もあり、全身に力がみなぎった。
しかし、一瞬でそのモワモワは消えてしまった。
再度、同じスポットに同じ様にルアーを通してみる!
ルアーを引き始めて10メートル程たった所で、再びモワモワと水面が僅かに動いた。
しかし、出ない!!

ここで迷いが生まれた・・・。
ルアーが大きすぎるのだろうか!?
よく分からないマッチザベイトの知識、ルアーのサイズで大きく反応が変わる・・・。
そんな擦り込まれた感覚がグッとあらわとなって来る!
試してみないと分からない、そう無理矢理に自分に言い聞かせたかもしれなかった。
すぐに、12センチ程のシンキングペンシル、そしてシンキングミノーと結び直して掛けに行く。



この迷いは、ただ迷いで終わってしまった。
どうしても、全く何も反応が得られないのだった。
時間が無いっ!!
すぐに元の150Fに結びかえキャストする。
するとどうだろう!?
再びルアーのすぐ後ろには、今にも水面を割るかのごとく、不自然な小さいウネリが出るのだった。
しかし、どうにもそれ以上の感じがない。
チェイスしているのは間違いないが、あまりに、嫌々追ってきている様にしか見えないのだ。
いくつもの正解のただ一つでしかない俺のルアーではある。
それなのに、どうにも魚が躊躇してあと一歩が踏み出せないでいる。
何故、あと一歩が踏み出せないのか!?



至極、単純な事だと思った。
おそらく、色でも、大きさでも、シルエットでもないだろう。
それは、「ルアーの動き」、ではないだろうか?



残された時間はもう幾何も無い。
遅すぎるのは分かっている・・・最後のチャンスだ。
今までのアクションを大きく変えてみた。
少しでも水中にルアーを泳がせてはいけない!
きっとそうだと確信する。
ゆっくりと、丁寧に滑る様に水面を躍らせて行く。
しつこい位のドッグウォーク、舐める様に大きく横を向かせ、左右に頭を振って行った。



バシャ!!
当てる潮とは別の水飛沫が上がる!
しかし乗らない!!
見えないが、水の中にいる奴らの存在を明確に感じる。
磯際から約5メートルのそこから、えもいわれぬオーラの様なものが伝わってくる。

絶対にまだそこにいる!!
全く同じラインを通す。
今にも爆発しそうなウネリがルアーのすぐ後ろに見えた。
再度、同じ線上にルアーを置き、ゆっくりと一つ一つの動きを確かめる様に動かすと、ついに奴は姿を見せた。
拳より少し大きい頭を水面に出し、すぐさまルアーを消し込んで行った!




「・・・・・。」




コンッともカスッとも伝わらない。
音も無くルアーを持って行った奴ではあったが、ラインにもロッドにも何の変化も出ないのだ。
一瞬の事ではあったが、永遠にも思える間を待って、それよりまだ少しだけ我慢して、力の限りフッキングを叩きこんだ!!

しかし・・・。
無情にも大きく振り上げたレイジングブルは、ブンっと大きな風切り音だけを残し虚しく宙を切るのだった。
予想した時間はほぼ正確であった。
その後、様々な事を試したが、まったくもって魚からの反応を得る事は出来なかった。



そこには、ボイルもナブラも無い。
意識しないならば、ただ何も無い海が広がっているだけである。
そして、あまりに短い時間。
私はそれでも屈しない。
往復、500キロの道のりを経てそこに立つ。
ただ、夢だけが自身を駆り立てるのだ。

それでは