2月9日の日記


いつも、その日の釣りを帰りの道中に振り返ってみる。
最近、主軸にはペンシルを用いてきた。
大きく、重く、そのルアーが生み出す波動は強い。
過去の経験から、その場にわずか一匹ないし、極少数いるであろう魚を寄せる力は絶大であったと思う。
バイトこそ得られなかったが、どこからともなく現れた青物の姿を何度も目撃してはいた。
しかし、魚に対してのアピールが強すぎるのだろうか・・・。
ルアーを見切られるというか、飽きられる事がとても速い様に思ったのである。

たとえ、食わせやすいライトゲームの相手でも、日によってはとてもよく釣れ、また非常に難しい時もあるものだ。
釣れるからといって、同じ事を繰り返していればいつかスレてしまう。
それでも、魚がベイトに程よく狂っている時はずっと釣れ続けたりもする。
もちろん、そんな時は稀であり、どなたも試行錯誤しておられるだろう。

磯の青物釣りもその例外ではないと思われる。
ベイトがいる、いないに関わらず、奴らは習慣的にショアラインにやって来る事も多かった。
もしかしたら、ベイトを発見するより前に、自身が投げるルアーに気付いて追ってきた事もあったと思う。
そんな青物達が、広範囲にわたって餌を求めている刹那の事。
やはり、アピールの大きすぎるルアーを投げれば投げる程、
また、間違った動きをすればする程、奴らはそれを学習しているかの様に思うのだった。

ずっと、ただそのルアーだけでは勝負にならない。
だからこその、ローテーションを考えてみる事にした。
現役を退いた物、また、良くないと判断しすぐにお蔵入りとなった物。
手持ちのルアーの全てを、あらためて見つめ直す事にした。
難しいセオリーなどは気にしない。
何が正解と出るか、頭の中でイメージを描き選んで行くのだった。


最近、通っている磯に今回も釣りに行ってみる。
別にそこが特別なポイントという訳でもない。
また、釣れている話も聞こえてはこない。
魚の反応があったとか、ベイトがいたとか、全て自身で感じた事である。
しかし、結局、それも一週間も前の話なのである。
海自体が生き物の様であり、一日の中でも刻々と状況は変わるのだ。
長い時間を経て、再び自分らしい釣りに戻った。
それで良いのだ。
それだけで十分であった。

現地に到着したのは、午前4時を少しまわった頃だった。
まだ、少し早い。
いつもながら体調も良くはない。
軽く準備を済ませ、時間まで仮眠をとる事にする。
まず、これが間違いであった。
携帯のアラームで目覚めたのだが疲れていたのだろう・・・。
一度、起きてはみたが二度寝してしまった。
再び目を覚ましたのは、午前6時10分。
本来ならば、もう磯に向かって歩き始めている時間だ。
大急ぎで駐車スペースに向かったが、南紀特急のロックをした頃には空は白々としてきていた。

普段、約15分をかけて先端に向かう。
それではとても間に合わない。
磯の上を転がる様にして駆けるのだった。
走り始めて10分、ようやく先端にたどり着いたが二人の先行者の姿。
ミノーと思われるルアーを、まさにマシンガンのごとく打ってみえる。


しまった・・・。


おまけに、この日は北西の強風が吹き荒れていた。
予報での波高は3メートル、殆どの場所にサラシが生まれており、打ち寄せる波に磯はどこも濡れていた。
先行者二人は絶妙の立ち位置にいる。
空いているのは、まったく潮が当たっていない場所と、沖からの潮がしっかり当たってはいるが、激しく波が叩く場所のみであった。
仕方なく、まずは潮が当たっている場所に立つ。
見ていると、海中にある沈み根のある付近で背丈ほどの波が立った。
そのままの勢いで磯に到達する。
叩きつける様に波が顔を打った。
おそらく、水温と気温との差が殆ど無いのだろう。
すぐに濡れていない部分は無くなったのだが、全く冷たさも寒さも感じなかった。



早速、ルアーを投げて行く。
この日、ローテーションする予定のルアーは全てポケットに入れた。
まずはこれだ!というルアーをキャストする。


あかん!!


全くもって今の潮に馴染まないのだった。
当てる潮、真正面から強く吹き付ける風に、ルアーはまるで木の葉の様に水面を舞っている。
次も、次も、また次も・・・。
釣行前のイメージとは裏腹に馴染まないルアー達。
それでも、何とか気を落ち着かせてルアーの操作に集中する。
時として良い動きをする瞬間もあった。
しかし、その半分以上が、イメージと全く違う動きで足元に戻って来る。
もう分かっていた。それこそ確信に満ちていた。
これでは、食いたくても食えないと。

まさに今、海は満潮に向かっていた。
ルアーのアクションがどうと言う以前に、まったく安全を確保出来ない状況である。
波が気になって、とてもではないが釣りに集中出来ないのだ。
心に大きくブレーキをかける。
良さそうな場所を諦め、潮が当てていないおだやかな方に移動する。
そこでやっと、自身の想定内のアクションが可能にはなった。
しかし、すでに遅すぎる様に思った。
そこはまた、先行者がすぐ隣で、おびただしい数のキャスト&リトリーブを繰り返してもいるのである。

それでも、心の底ではまだ諦めてはいない。
海は何があるか分からないからだ。
丁寧に、ゆっくりと一つ一つのアクションをルアーに送信して行く。
少し休憩しようとした時、それはふいにやってきた。
魚からの反応ではない・・・。
大波であった。

ルアーをガイドにひっかけてラインを巻き、後ろを振り返りざまにきたのであった。

ヤバイ!!!

そう思った瞬間には、波は胸まで私をとらえていたのだ。
そして、ライフジャケットの浮力のせいで身体はいとも簡単に浮く。
一度、地面から足が浮くともう自由はきかない。
ただ、波まかせに後ろ向きにされ、波が引いた瞬間、背中から磯に叩きつけられたのだった。
後ろ向きに波が拡散して行く磯の形状であったから助かった。
もし、そうでなければ、きっと引き波に体ごと持って行かれただろう。
これぐらいなら大丈夫だろう・・・。
数々の経験からの慢心である。
やはり、慣れてきた頃にこそ事故は起きるのだ。
大いに反省するのだった。



その後しばらく、満潮からの下げまで休憩をとった。
少しの事で、海は劇的に静かになって行くのだった。
様々な事を考えながらキャストを繰り返して行った。
この日の状況では、選び抜いたルアーは全くの誤算であった。
先行者の存在も想定外である。
深く考えなくとも、この日、出ない理由は明らかだった。
一投、一投の大切さを、改めて実感する。

チャンスは本当に僅かなのだ。
全ての動作に無駄があってはならない。
間違った感覚かもしれないが、強くそう感じるのだった。
そして、ほぼ、100パーセントに近い事が出来たとして、それがいつも、釣果に結びつくとは思えないとも感じ始めているのだった。
魚に聞いてみなければ、その日、その瞬間の奴らの気持ちは分からないからである。
どうしても、水面、もしくは水面直下に出たくない時もあるだろう。

ただし、釣りを運まかせにはしたくないのだ。
自身がやれる最大限の事までは出来る様になりたい。
その上で、どうする事も出来ないのならば、晴れやかに釣り場をあとに出来るだろう。
日々、努力あるのみである。

それでは