5月11日の日記


今回の日記はあまりに情けないので書く気になれなかったのです。
ただ、どんな釣行も綴って来たので、今さら止める訳にもいかず。
そんな惰性の気持ちで書いています。
しかしながら、今回、普段通りの日記はキモチ的に書けそうもないのです。
ですから、まずは私が今、「情報」、についてどう思っているか少し書いてみます。



日々、自分なりのアンテナを張りめぐらせてはいる。
「情報」、に左右されるかどうかは別として、常に海の事が気になるのだ。
単純にドコソコで何が釣れたなどは、聞いていてとても面白い。
シンプルに魚釣りが好きだから、釣りのハナシは聞いていて飽きない。
とはいえ、ともすれば海で生計をたてている方々と、密接した関係を持つ地元アングラー達の情報量の多さには到底かなわないのである。
そしてまた、リアルタイムで釣れている場所に立ったとして、はたして自分に釣れるかという事。
だから、どこで釣れているという事が最重要ではない。



ただ、自分が好きな場所の事はいつも気にしてはいる。
釣れない時、または空いた時間には、たとえ遠くからでもその海を眺める。
何故好きか!?と言われると返答に困るのだが、それはおそらく、この釣りを始めた時にとてもワクワクしたからではないだろうか。



何が起きるか分からない。



そう感じたからこそ竿を振り続けたし、自身の心に刻まれる一匹を釣る事が出来たのではないかと思う。
しかし、通えば通うほどに、そんな淡い気持ちは遠くなるものだ。
変に経験値だけを積み、海を見て、また実際に竿を出して、固定観念という物差しではかってしまう。
じつは、こうして通う中で、いつもそんな気持ちと闘っている自分がいる。



釣行の二日前の夜中、そんな自身のアンテナに強烈な電波が触れた。
もちろん、釣果ではない。
それは何かに飢えていた私の心に大きな衝撃を与えたのだった。
今回は釣りに行って良い連休ではない。(お金が無いからです!)
しかしもう、いてもたってもいられない!
急遽、スクランブルの計画をたてるのだった。





釣行の前日、何度かお世話になった渡船屋の船頭に連絡する。
なかなかお忙しく、携帯にかけてもつながらない。
やっとお話が出来たのは夜の7時をまわった頃であった。
あの磯にて釣りをしたいのですが、明日はいかがでしょうか!?
祈る様な気持ちでお聞きする。
天候を見る限りでは、普通ならば断わられる状況であった。




せっかくだけど、雨と波でやめといてもろた方が良いですよ。
竜巻のハナシも出てますから・・・。




ハッキリとは言わないのがこの船頭さんらしいが、現時点の情況で、安心して釣人に楽しんでもらう事は難しいとの気持ちが伝わってくるのだった。
喉から手が出る程に立ちたいのだが、その気持ちを何とか理解して諦めるのであった。



しかし、一度でも火がついた気持ちを収める事は難しい。
行くと決めた以上、もうどうにも止まらないのだ。
おそらく、良い潮が入ってきてるのはこのピンスポットだけではない・・・。
良い時、かなり遠く離れた場所からも似た様な結果だったと、何度も伝え聞いた事があるのだ。
良い日の、その日限りの、広範囲にわたる、同時多発的な奇跡を信じている私である。
全く意味不明な言葉の羅列かと思う方もみえるだろう。
ともかく、明日は釣りをすると準備をするのだった。




現場付近に着いたのは午前2時を過ぎた頃だった。
今日の予報では、南からの強い風、そして波高は3メートルとの事。
午前2時の今現在、予報とは違い、ほぼ無風の状態が続いた。
道中、雨はずっと降り続けていた。
しかし、それは合羽を着ていれば問題ないほどの雨量である。
もう少しポイントまで近づくと、今度は北からの風を感じるのだった。
車を停めて、よくよく確認したが、強く北東の風が吹きつけていたのである。
本当はある程度、足場が高く、荒れに強い場所に立とうと考えていた。
しかし、予報とは違った風が強く吹いている・・・。
もしかしたらと、予定通りの場所に行ってみる事にしたのだった。



ポイント近くまできてまずは車を停めた。
波の音を聞きたかったからである。
いつもよりは強くその音は繰り返されてはいる。
しかし、まだ向かう気力を削がれる程の音ではないと感じた。
雨雲に覆われた空なのだろうか、今夜は漆黒の闇に包まれている。
おそらく、いまだかつて、これ程暗い海に向かった事は無い。
一瞬、躊躇して引き返そうと思った。
それでも尚、一歩一歩確かめながら進むのだった。
ポイントに向けて歩いていると、次第に波の音が強くなる。
ここでは強いと表現するが、それは恐怖と同義語なのである。
時折、ヘッドランプに照らされる、妙に輝く岩肌がその恐怖を更に強くして行った。



ほどなくしてポイントに到着する。
海からかなり離れた高台にてまずはじっと眺めるのだった。
真っ黒な辺りには恐ろしい音が響いている。
目が慣れてくると、そんな闇の中にうねる波が見えてくるのだった。
それは、その場で硬直してしまう程のものであった。
おそらく、実際に2メートル以上の高さの波が絶え間なく打ち寄せている・・・。
時折、いわゆるセットというものだろうか、とんでもない波が叩きつけるのだった。
高台にいてなお、足元まで来た波に気持ちが大きく揺らいだ。


一歩たりともその場から動けないでいた。
時はもう、いつものチャンスタイムを過ぎている。
しかし、まだ光量の少ない今、はっきりと周りが見えないので動く事が出来ないのだった。
おそらくそれは、その場の状況判断だけによるものではなかった。
何故か!?
数時間前に少し離れた場所にて地震があったからである。




述べる事すら忌わしい。
しかしそれは、私の心にとても強いトラウマとなっていたのだろう。
真っ暗な海を前に、止めども無くあの光景がフラッシュバックしてきたのだった。
様々な恐怖の連鎖でおかしくなっていたのだろう。
おそらく、パニック的な感情だったかもしれない。
あまりに恐ろしく殆ど覚えてもいない・・・。
はたして、今まさに津波が来たら、どうして生き残る事が出来るだろうか。
釣り好きで、好きな場所にて命をまっとう出来たら本望か!?
一瞬だが、それをリアルに考えた瞬間だった。
こんな所で一人死にたくない!!
それが本心であった。




後戻りする勇気が無い訳ではない。
しかし、しかし、たとえ一投でもこの海を確かめてみたかった。
回収でルアーが磯際に根掛かりするのは目に見えている。
その場から二歩だけ前に出た。
いつもより10歩以上も離れてはいる。
そこからフルキャストした。
荒れに強いルアーでさえ、まるで木の葉の様に海面を舞って行った。
その時、それ程強くない波が寄せてきた。
ドン!!っと下腹から波が自分にブチ当たる。
もう限界だ・・・。
あまりの怖さに気分が悪くなってしまう。
逃げる様にして波とは無縁の場所に移動した。



少し呼吸を整え、大きく内側に入ったワンド状の場所に向かった。
しかし、ここでも時折、打ち寄せる大波でまるでモヤの様に潮があたりを漂っていた。
ただし、波の直撃だけは避けられる様だった。
ベイトが非難し、それを狙いに魚が巡ってやしないか。
そう思いルアーをキャストして行った。
しかし、そこでは山側からとても強い風が吹きつけていた。
狙いを定めた場所にルアーを届ける事すら出来ない。
我慢しながら何投かするが、全くイメージ通りに展開する事が出来ないのだった。
再び高台に立ち大きくため息をついた。
もう心がもたない・・・。


茫然としていると、どうやら潮が静かになってきた様だった。
おそらく、干満の動きが停滞した瞬間だったのだろう。
冷静さを欠いた頭でさえ分かるほど、打ち付ける波が静かになって行く。
半ば強制的に気持ちを落ち着かせ、再度、少し離れた立ち位置に立った。
ルアーをキャストすると、何とか泳いではくれている。
しかし、何も起きる事は無かった。
海中に目を凝らして何となく分かった気がした。



心身ともに疲れ果て車に戻った。
今日はもう無理だと思った。
波静かな場所にとにかく向かいたい。
何に怯える事もなく、ゆっくりと竿を出したいと心から思ったのだった。
すっかり陽が昇った今、車を走らせる。
行けども行けども、辺りはまっ白い霧の様なものに覆われていた。
いつもは輝く海がまるで見えないのだった。
まるで私の心をうつしている様な光景であった。

それでは