9月10日の日記





仕事から帰り、夕食の後、ウトウト~としていると、部屋の扉を叩く音にハッとする。
「釣りに行くけど行かへんか~」、親父の声であった。
どうやら、豆アジが回遊しているらしく、ウズウズして出撃するとの事である。
全く、心の準備が出来ていない私だったが、少し考えて一緒に行く事を告げた。
親父には申し訳ないが、途中下車をして河口で釣りをする事にした。
願わくばアジのフライと、スズキの洗いのご馳走である





河口に到着したのは23時頃であった。
早速、道具を持って水辺に向かう。
薄明りに照らされる水面は思ったよりずっと下にあった。
釣りに行くと思っていなかった為、全く潮汐を意識していなかったのだ。
川底が大きく露出していた。
なるべく水深のある場所に移動してみるが、それでも深い所で膝丈ぐらいだろうか。
シャロータイプのルアーを用いてさえ、すぐにボトムノックしてしまうのであった。
これではまともに釣りが出来ない。

大失敗ではあったが、これ程までの水位の変化を見て、また一つ学ぶ事が出来た
ずっと、ただ待っているのも嫌なので、難しいとは思ったが、トッププラグを投げてみる事にした。
ロッドでのアクションは付けず、リトリーブのみでヨタヨタと泳がせてみた。
少しずつ、少しずつ潮は上げてくる。
それに合わせ、徐々に潜航深度の深いミノーへと切り替えてみる。
しかし、全くもって何の反応も無い。




何時間もそんな事を繰り返していた時、遠くからザバザバとした水の音が聞こえてきた。
真っ暗で何も見えないのだが、おそらく、その音の主はゆっくりとコチラに近づいている様子だった。
やがて、その懐中電灯の明かりが見えると、かすかに人の話し声の様なものが聞こえる。
真夜中ではるが、人が水の中にいる様である。
しばらくすると、その声はハッキリと耳に届く様になって来た。
シュノーケルを咥えたまま会話しているのだろう。
言葉が聞き取り辛い。
何をしているのか分からなかったが、それを気にして手を止めている訳にはいかない。
無理矢理に集中し、気になる部分を何度も通して行く。





おそらく、水の中の人間もコチラに気付いたようだ。
微かだが、「あそこでルアーを投げているヤツがいる」、っと言っているみたいであった。
また、こんな場所で何を釣っているんだと聞こえた気がした。
それからすぐ、水をかく音は更に大きくなった。
どうやら、話していたのは二人ではない様子で、遅れて来ていた何人かと合流したみたいである。
こんな場所で何をやっているのか!? こっちが聞きたい位であった。










向こうは自分の存在を認識している。
おそらく、釣りをしている事も知っていると思っていた。
少なくとも、相容れない、互いの間合いというものが、暗黙の了解としてあるのだと思っていた。
しかし、それは私の思い込みでしかなかった。
みるみる内に彼らは、私のキャスト範囲にまで踏み入れて来る。
そして、その足をいっこうに止めようとはしない。
ついに、その一人が私の真ん前まで来たのだった。
たまらずに声をかけた。



こんばんは、漁師さんですか?っと私。
「いや、遊びや遊び!」、っと一人が言った。
釣りしてるんやけど・・・っと、私が言い終わらない内に、少し沖にいた一人が怒鳴り声をあげた!
いきなり逆上し、聞き取れない程に舌を巻いている。
すると手前にいたもう一人も、それにつられて何やら高い声で叫びだした。
人けの全く無い夜中の川辺で、不気味な、真っ黒なウエットスーツに身を包んだ四人が相手ではあまりに不利である。
やがて、頭に血が上った奴らのとる行動は一つだろう。
だから、すぐに話しの先をかえた。
何を獲ってるんですか?と私。
すると、自慢げにウナギだと答えた。
シーバスなど、一匹も見なかったと重ねて言った。





しばし、沈黙が続き、何事も無かったかの様に彼らは川を上って行った。
もちろん、私の心は別としても、これではとても釣りが出来はしない。
あまりにも残念な展開に、私の気持ちは完全に折れてしまった。
行き場の無いおもいに、ガックリと力が抜けてしまった。
あまりにも残念であった。
そして悔しかった。





すぐに親父に電話すると、そちらもアジの回遊がまばらで、釣れてもとても小ぶりだとの事。
あくる朝、私はいつも通りに出勤でもある。
親父には悪いのだが、釣りを止めて迎えに来てもらう事にした。
帰宅は午前3時。

道具を洗い、すぐに床についたが、悔しさのあまりしばらく眠りにつく事は出来なかった。
あくる朝、目が覚めると親父の姿は無い。
母に尋ねると、二時間ほど寝て、もう一回釣りに行ってくると出かけたとの事であった。
丸一日、仕事を終えて帰宅するが、まだ親父の姿は無かった。
やがて、22時頃、いつものハイエースの音が聞こえてくる。
早速、クーラーボックスを開けると、そこには20センチ弱のアジが一杯に詰まっており、
25センチ程のキス、手の平より少し大きいグレの姿もあった。

寝ずに、いったい何時間、釣り糸を垂れていたのだろう。
この、困った、「DNA」、が確実に私にも継がれているのだなと実感した。
行けば必ずに釣る親父。
海の素晴らしさ、釣りの喜びを教えてくれた親父。
母共々に、末永く、そのROCKな人生を生きて欲しいものです。
アジのフライ、手が痛いと、ボヤキながら作ってくれた母に感謝!
とても美味かったよ



それでは