4月5日(現地時間)の日記







その扉をたたいたのは、レンタカー会社のオープン時間の午前8時を少し過ぎた頃であった。
慣れない英語での手続きを案じナーバスとなっていたが、もう後戻りするつもりはない。
ドアをくぐるとすぐに立派なデスクが設けられていた。
すぐにでも出発が出来る様、持ってきた道具一式をフロアの隅に置く。
そこまでしてやっと、不器用な発音で声をかけた。
しばらくして、奥のスペースから現れたのは日系人風の男性であった。
朝の挨拶をすると意外にも返って来た言葉は、「おはようございます」、と流暢な日本語のそれであった。
聞けばこの方、日本で生まれその後世界中を転々とし、この地に今は落ち着いてみえるとの事。
五か国語を使い分けて仕事をされてみえるそうである。
本当に凄い人がいるものだと思った。



よって、何の滞りも無く、手続きを無事に済ます事が出来た。
思えば、昨夜に受け付けてくれた方のサービス心であったかも知れない。
そっと感謝しつつ、車のキーを受け取った。




























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荷物を積んでエンジンスタートです。
ここから磯へは、ナビなし地図なしの道のりとなります。
前日のバスでの移動も殆ど寝ていましたから、正に勘だけが頼りとなりました。
ともかく、走り出すのみです。








走り出してすぐ、強烈な違和感を感じるのであった。
車線が逆である事。
イメージ上では僅かな違いでしかないが、いざ走り出すととても戸惑うのである。
右折はまだ良い。
迷うのは大きな交差点での左折であった。
先行する車が居ないならば、一体、どのラインを通るかが一見して分からないのだ。
おまけに車の流れはとても速い。
制限速度の表記はマイルであるが、どの車もそれよりは、10~15マイル程超過した速度で走っている。
戸惑っていると、老夫人の乗った古いセダンにさえ追い抜かれる程であった。
ここにきて、免許をとって初めて道路に出た気分を味わう事になったのである。
制限速度プラス、5マイルをキープしながら海を目指すのであった。



























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やがて、見覚えのある峠道へとさしかかる。
窓を開けると微かな潮風を感じた。
運転での緊張と釣りへの期待で我を見失いそうでした。
ここは一旦、安心して車を停めれる場所にて気持ちを落ち着かせよう。
そう思って、昨日、訪れた観光スポットに立ち寄る事にしました。
外海に面した岬も見れるので、今日の海況を知るのにも好都合だと思いました。

























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パーキングエリアにて。
今回の相棒は日本車のセダンとなりました。
すこぶる静かで快適な車です。
エアコンは寒い位に効きました。
アイランドエクスプレス!
なーんてネ。
























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早速、海を見に高台に立ちました。
昨日とはうって変わり、薄暗い雲があちらこちらに浮かんでいます。
写真には写りませんが、風もまた一段と強さを増しているのでした。
それに自然と緊張は高まります。
心して磯へと向かうのでした。









曲がりくねった山道をひた走ると、急にその視界が開け眼下に大海原が広がるのだった。
しばし、その断崖絶壁の岩壁を横目に走る。
やがて景色が変わり、降りて立つ事の出来る岩場となった。
ついに、磯へと辿り着いたのである。

しかし、ただその感動に浸っている訳にはいかない。
自身はここに釣りをしに来たのだ。
当然ながら、磯ならばどこでも良いという訳ではない。
はたして、魚はそこに居着いているだろうか。
もしくは、魚はそこを回遊するだろうか。
魚を探し、ポイントを絞り込む必要がある。


勿論、初めての地であり、瀬際に立った事すら無い。
下調べや事前情報など何も無いのである。
おそらく、いくら海が豊かとはいえ、自然にそぐわない釣りをすれば結果は厳しいものとなるだろう。
三重、そして南紀の海すらも満足に知らない私だが、幾度となく通った感覚がそう思わせた。
そこに立ち竿を出し、向かえる全ての場所を検証している時間は無い。
ともかく、まずは駐車可能なスペースを探し海を見るしかない。
行きかう車の流れは多く、事故を起こさない様に慎重にハンドルを向けた。

























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安心して降りる事が出来そうな、なだらかな斜面が続いています。
しかし、立てそうな場所は時折、大きく波を被り水没するのでした。
強烈な風が沖から当てているのです。
波の力は相当なものに見えました。

























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こちらは少し足場が高く、今の潮位、波高ですと何とか立てそうに思えました。
写真中央より少し右手の方には、地元の釣師達が竿を出されてみえます。
すぐ傍の磯の頂上まで行って様子を見る事にしました。
クエ竿を短くした様なロッドが数本、垂直に立てられ置き竿にしてありました。
何かは分かりませんが、大型の魚を餌で狙われているのでしょう。
彼等のいる左隣には立てそうですが、風向きを思うととても狭い範囲でしか探れない気がしました。
万が一、オマツリなど起こしてしまったら大変です。
残念ながらこの場所は見送る事にしました。








その後、数か所の磯を巡り行くのだった。
まず、判断基準としたのは波と風であった。
体感では風速は10メーターを超えている。
安全の確保、そしてルアーをうまく泳がせる事を最優先としたのである。
あとは水色と目に見える地形、潮流などを考慮していった。
僅か距離にして、約2~3キロのロックショアラインであったが、その中でも水の色はかなりの違いを見せたのである。

降りる事が難しい磯の先には、何か所かは唸る程のそれが見てとれる場所もあった。
しかし、ここは海外である。
おまけに単独での釣行なのだ。
いくら冒険が好きとはいえ、好んで危険を冒す事は出来ない。
無事に帰ってこその釣りなのだ。
そのギリギリのラインにて入る磯を決めた。
情けない話だが、それでも滑って転倒したのである。
少し短いグローブがズレて、手首からすぐの手のひらに穴があいてしまった。
傷口に付着する土を唾液にて拭い取ると血が流れ落ちた。
しかし、痛みをまるで感じなかった。
おそらく、久々の磯に脳内麻薬が大量に分泌されていたのだろう。

























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この感覚に冷静にいられるはずはありません。
長い沈黙の末の磯は格別に思いました。
やはり、私はそこが好きなのです。



























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沖に向け、少し先から水色が変化しているのがお見えになるでしょうか?
おそらく、この辺りがブレイクラインかと思いました。
色の濃さから、多分、一気にズドンっと落ち込んでいるだろうと予想しました。
その線上がまず、一つのキーポイントとなるのではないか!?
そんな感じでイメージするのでした。

傍には三名の地元の方がいらっしゃいました。
お二人はカップルでした。
もう一人の方は、前途したクエ竿の様なタックルを一本、そして短いスピニングのライトタックルで釣りをされています。
手に持ったライトタックルの先にはリグが組まれてあり、針先にはワームの様なものが付けられていました。
魚を擦り潰したコマセの様なものを撒いて魚を集め、その小さいルアーで喰わせる釣りなのです。
50センチ程のソウシハギ、幾つかの種類のモンガラカワハギの仲間が釣れていました。
サラシを利用し、うまく流れに乗せると喰いが良かった様に見えました。
軽く会釈をして足場を決めます。
変な奴が来たと思われた事でしょう(笑)



























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準備完了です。
ついに!
南紀マンが世界の磯に挑戦する瞬間が来ました。














最初に結んだのはポッパーである。
勿論、理由は好きだから。

岸寄りのシャロー帯を中心に、まずは広範囲に探って行く事とした。
しかし、すぐにこの選択が誤りであった事に気付く。
波の高低差こそ僅かだが、連続して立つ波の中において、そのポッパーが生むスプラッシュがまるで際立って見えないのが理由であった。
人間からは良く見えなくとも、実際には魚には充分なアピールをしている事も多い。
しかし、今回は時間が無いのである。
不確かなそれを試すよりは、たとえ少しでも信じられる方法を選びたい。
幸いにして足場も低い為、自身として信じられるペンシルへと換えるのであった。

結果として、それも上手く合わせる事は出来なかった。
自身の技量では、風と波を味方につける事が全く出来ないのであった。
ラインが大きく風に引っ張られ、ペンシルは凄い速さで水面を滑走して行く。
今度は真正面に風を受けるかたちでキャストしてみる。
80グラムに迫る重量を持つそのルアーであるが、強い風にあおられ、本来の飛距離の半分も飛ばないのであった。
それだけならまだしも、風の向きと潮流がチグハグで全く泳がないのである。
ダイビングアクションやスプラッシュを生む事など、一度として行う事が出来ない。
ここにきて、自身の力無さを悔やむのだった。


ならばと、あまり自信の持てない、シンキングペンシルを試してみる。
小さく細く、重量があるもの。
また、大きく太く、更に重量があるもの。
その二つのものをキャストしてみた。

結果、風に引っ張られたラインによって、それらが沈下する事は無かった。
トップを引いてみるのだが、やはり風向きによって引けるラインが限られてしまう。
結局、まともに泳がせる事が出来たのは、フローティングミノーだけであった。
より飛距離の出るシンキングも試してみたのだが、複雑で強い流れのせいで泳がない。
どうやら、水の中はもっと難解な様である。
フローティングミノーにてシャロー帯を探り続けるが何の反応も無い。
沖にあるブレイクラインには到底届くものではなかった。
瀬際やサラシにも何度か通してみたがこちらも同様である。
これ以上はもう時間を無駄に出来ない。
それが結論であった。
プラグでの釣りを捨ててジグへと移行する。
最早、私にはそれしか残されていない。






70~80グラムまでのジグは全滅であった。
風を真向いにして尚、ラインが舞い上がって沈まないのである。
荷物を重くしない為、そしてまた、当初予定していたポイントの水深はないだろうと予想し、150~200グラムの重いものは持っては来なかった。
更に重いものは、100グラムが僅かに2つである。
どちらもロングシェイプだが、片方は軽い力でよくスライドするものであった。
同じ100グラムの重量ではあるが、こちらの方が沈下が格段に遅いのであった。

そして、沈ませるよりも難しく感じた事がある。
浮き上がりが速すぎるのか、はたまた潮に馴染まないのか。
その重みを感じながら、シャクリ上げて来る感覚が殆ど得られないのだった。


残された唯一のジグ。
同じ重量かと疑うほどによく沈んでくれた。
さすがに風を横から受けるならば沈下は止まる。
それでも、テンションフォールがごとく待っていると速い潮が運んで行ってくれた。
着底の感触は得られなかったが、流れがジグを潮の緩みへと届けてくれたのである。
そこにて連続して速いジャークを入れてみた。
ゴン!っとふいに出るあの感触。
何かが喰った。





























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記念すべき、海外初の魚が釣れてくれました!
イケカツオの仲間でしょうか。

























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いつもの様に記念撮影。
やったね!








撮影後に我に返ると、周りの釣師達は一様に驚いた顔でこちらを見ていた。
どうやら、自身が魚を釣ると思っていなかったのだろう。
首をかしげる素振りをしてみえた程である。
するとすぐ、カップルの男性にもヒットした。
どうやら群れが回ってきたのだろう。
瀬際でのヒットの様子である。
喜んでみえたので、食べれる魚ですか?とジェスチャーを交えて聞いてみた。
イエスと答えるので、食べて下さいと差し出すととても喜んでくれた。
それで少し場の雰囲気が和らいだのであった。
皆が笑い、さあ釣るぞという雰囲気に溢れて行ったのである。
国や釣法は違えど、そこには磯でいつも見かける笑顔が輝いていた。
釣り人にも国境は無い。
そんな風に思う、Rockbeachであった。











更に強く、レイジングブルを握りしめるのだった。
見えぬ獲物を求めて、自身のロックがみなぎってくる。
あのブレイクの向こう側、あの深みに潜むであろう奴にどうしても自身のルアーを魅せたい。
沖に約80メーター、そこまで届けばだいたい、ブレイクの約20メーター向こうにルアーを落とす事が出来る。
強風に邪魔をされ、今までのフルキャストでは、よく飛んでも40~50メーターの地点に着水となっていた。
どうしても、どうしてもそこに撃ち込みたいのだ。

見えないのだが、その深く濃いブルーのそこからは、得も言われぬオーラの様なものを感じていた。
ともすればそこに、何十キロというモンスターが回遊していても不思議は無いだろう。
トッププラグを放ちたいがそれはままならない。
ならば、その海底へとジグを届けたい。
そこで、風が少し緩むタイミングをじっと待った。
キャストの間、そしてフォールの間の僅かに数十秒だけでいい。
祈る様な気持ちでそれを待ち続けたのである。
やっと、その瞬間が訪れたのだった。








空気を切り裂く様にジグは彼方へと飛んだ。
フォールに入ると、ラインは瞬く間にスプールから出て行く。
やっと、やっとの事で自身の釣りの歯車が噛み合った。
それでも、着底にはかなりの間を要するのだった。
南紀での感覚からすると、水深は少なくみても30メーターはありそうな感じである。
しばらくして、小さくコツっとした感触が伝わって来た。
潮に邪魔をされる事無く、ジグは素直に着底した様であった。
よし!


間髪入れずにアクションを入れて行く。
バンバンバンバンっと跳ね上げ、ふわりと一瞬のフラッシングを与えたその時であった。
ガッ、ガガガガッ!!
硬質の感覚が手元に伝わる。
ふっと力を抜くと、すぐに衝撃が走った。



刹那、ロッドを振り上げアワセを入れた。
ドスっとした重みを感じ、更に鋭くフッキングを叩き込む。
一瞬だけきいてみて、乗った事が分かった。
魚はすぐに走り出したが、それでも強く締め込んだドラグにラインを出す事は出来ない。
ロッドがゆっくりと曲がって行った。
もしかすれば、眠れる獅子であるかも知れない。
その引き、感触は初めてのものであった。
時折、グングンっと重い身のよじり方をしている。
4キロ? 5キロ?
そんな風に思った。

手前まで来ると、どうやら奴は速い潮流に乗ってしまった様である。
途端に重みが増して行く。
無理に寄せず、そこでしばらく置いてやる。
その姿を見て、やっと周りの方々は気付かれた様であった。
どうやら、あの男はまた魚を掛けたと言っているのが分かった。
やがて力を無くした奴が足下までゆっくりと寄って来た。
大物竿を持っていた方が、どうやらランディングを手伝おうか?と言ってくれている。

No! Thanks!!


そう笑顔でこたえ更にラインを巻き取って行く。
タイミングを合わせ一気に抜き上げるのだった。
横たわった奴を見て、自然と雄叫びをあげていた。




























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バラクーダ

いつか釣ってみたいと思っていました。
この鋭い歯をご覧下さい!
正に牙の様ですね。





























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以前、苦労して作ったアシストフックがしっかり貫いてくれました。
これもまた、醍醐味の一つですよね。
自作ルアーで釣る方ならもっと大きな感動があるのでしょう。
本当に嬉しかったです。
やったね!!


周りの方々も、Good! Big Fish!! などと一緒に喜んで下さいました。
自身、バラクーダは毒があると子供時代から思っていましたが、聞くと食べれるし美味しいとの事でした。
喜んで頂ければと差し上げる事にしました。
























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その後、釣りが出来たのは一時間程度であった。
地元の方はライフジャケットなど着ていなかったが、海の変化にはとても敏感に見えた。
潮位が増し、風も更に強さを増して行く。
水際から離れた場所でさえ飛沫を被る頃には、皆が帰り支度を始められた。
自身は粘ったが、頻繁に頭から潮を被る様になって納竿する事にした。
残念ながらその後はノーバイトに終わる。
風さえ止めばと名残を惜しみながら磯上がりするのだった。

























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高台から見下ろすと、更に険しさを増した海が見えました。
まだまだではなく、そろそろかなといったタイミングが丁度良いのかも知れない。
少なくとも私にはその様です。
























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磯から上がってすぐに車を走らせます。
午前10時から正午過ぎまでの釣りでした。
お腹が減ってたまりません。






















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とっ! 発見
ドライブスルーは不安なので店内に入りました。
























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買い物をして海岸までやってきました。
海を見ながらランチを頂きます






















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やっぱり、釣りの後はコレです!
大味とよく聞きますが、とても美味しかったですよ。
満足満足











狙いの、「ULUA」、と出会う事は出来なかった。
もし、あともう一日あれば・・・。
もしかしたら、僅かでもそのチャンスは生まれたかも知れない。
しかし、そこまで思って考えるのを止めた。

南国へと釣りに向かわれてみえる方には、何だ、バラクーダかと思われるかも知れない。
しかし、私には叫びをあげるほどに嬉しい魚であった。
見知らぬ海外の地で、大好きな磯から出会えた魚だからである。
ガイドも居ず、情報も無く、ただ、自らが選んだ場所であった。
そして、狙いを定めてヒットを得られた事。
例えそれが何の魚であれ、たまらない感動があるのだ。
誰に誇るわけではなく、ただ自身の心を満たす為だけの事。



夢の魚はまたいつかの時まで大切に残しておこう。
釣りにおいて、夢を夢のまま終わらせる事はないと信じたい。
私の旅はまだ始まったばかりなのだ。


つづく





My Tackles

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