10月1日、2日の日記











体調絶不調。

不整脈、頭痛、めまいを繰り返している。


それでも、海へ行きたい。
釣りも含め、大自然の中でゆっくりと過ごす事こそ、
心とからだの最高の治癒になると思うから。










とはいえ、道中の運転で危険があっては絶対にならない。

準備から移動まで、休み休み、無理のない様にゆっくりとしたペースで行う。
よって、予定した時刻からは大幅に遅れが出てしまった。
現場に着くと、何か所かのパーキングスペースはもう満車状態であった。




先に南紀へと着かれ、もう、既に磯へとおりてみえる、yaku氏へとご連絡させて頂く。
氏のおみえになる磯には他に誰も居ないとの事であった。
そして、まったく偶然にも、氏の車の隣に空き駐車スペースがある。
何かの導きかも知れない。
そうして、氏のみえる磯へと、有り難くおりさせて頂く事にした。














薄明るくなった頃、氏のみえる場所から少し離れた場所へと立つ。

幾度となく釣行を重ねていても、この瞬間の高揚感はたまらない。
はたして、今日はどんな海が広がるのだろうかと胸が張り裂けそうになる。
しかし、この日、感じる胸苦しさはそれだけではなかった。
期待と興奮によって、脈は乱れ、文字通りにリズムが狂うのだ。
動悸で息苦しくもある。
ともかく、落ち着く事。
普段であれば、喜ぶべきこの高揚さえもが邪魔をするのである。
「静まれ!」 と念じながらのファーストキャストとなった。










キャストを始めてしばらく経ったが、水面が弾けるまでには至らない。

どうやら、魚がいないという訳ではないらしかった。
「もじり」 まではいかない、小さな違和感をおぼえる程度にすぎないのだが。
水面が微かに揺らぐ感覚があった。


おそらく、魚はそこにいて、反応はしているのだろう。
だがしかし、彼らにとっては違和感のが大きいのかと思う。
一瞬だけ見に来て、興味が無くなって帰る。
そんな状態では!?と予想した。


スピードやアクション、そして、ルアー自体をも変えて妥協点を探そうとする。
やっと、一つのかたちにおいて 「もじり」 を見る事が出来た。
やはり、魚はいるのだ。
はたして、そこから、いかにバイトへと導くのか!?
ワンキャストごとに思考を研ぎ澄ませて行く。




バシャ!!


右方向に突然の炸裂が起きる!


横目でしか姿を追えなかったが、身半分を露わにして魚が出た瞬間であった。



ボイルか!!



っと、その後方を見ると、線上にはyaku氏が立っておられるではないか。
次の瞬間、氏の持つロッドの先端が絞り込まれた。
見る限り、強烈なバイトであり、その衝撃は氏へとダイレクトに刺さった様であった。
残念ながら、それ以上、針は深く捉える事は無かった。







正直、このバイトには相当に焦った。

その後も、氏の操るルアーには大小の目に見える変化があるのだ。
しかし、私のそれには飛沫が上がらない。
わなわなと水面が揺らぐばかりなのであった。



そこで、大きく方向転換を決める。

アクションを手で入れるのではなく、ルアー本来が持つ特性で出そうと。
具体的に言うならば、水面下、約5~10センチをリトリーブのみでスイミングさせる。
竿の縦の角度のみで、ルアーの潜航深度を調整し、巻く手によって速度を変えた。


実にこれはハマった。

今までが嘘の様に飛沫があがった。
そして、待望のヒットである。













ファイト早々の感覚は荒い。

すこぶる元気が良い様である。

ショートポンピングを繰り返し、ハンドルを無我夢中で巻くと海面へと魚が出た。
まだ、ずいぶんと沖ではあったが。
見たところ、70センチ手前のハマチの様に見えた。
よし、手堅く、まずは一本!
そう思った矢先、恐ろしい程の変貌に一気に汗が噴き出した。









つんざく様にして突っ込み始めたのである!

まさか、魚が入れ替わったんじゃないか!?
本気でそう思った程の豹変ぶりであった。


咄嗟に足を使って何とか応戦して行く。
突っ込む力だけでなく、方向転換が急で勢いがありすぎるのだ。
ギュン、ギユュン、ギーィーンって感じ。
瀬に近づく程に勢いを増し、最後の突っ込みに思わず声が出てしまった。
そして、手元を見て更に驚く。
「XR-2」 が凄いスピードでバットまでひん曲がったのだから。








もう、頭の中はパニックであった。
見えたのはハマチ。
それが、今まで体験した事もない様な強烈さをみせているのだ。

力で耐えながら、足を一歩だけ瀬際へと進める。
どうしても、その姿を見たかったから。
そして、次の瞬間に戦慄が走る。










まだ、暗い海の底には。

二つの巨大な黒い影が這いずる様にうごめいていたのだ。

足下の瀬へ沿って、必死で潜ろうとするハマチ。

その下に渦を巻く黒い影。










見てはいけないものを見た気がした。
まるで、この世のものではない何かの様な。









再び、方向転換をしたハマチは瀬際を、反対の方角に向けて走った。

その先には嫌なエッジが張り出している。
ガガッっと擦ったが、そんなのに対応している余裕は無い。
引きがあまりに強く、足で追わなければどうしようもなかった。
引っ張り合いになった頃、大きく、ガクン!っという衝撃と共に魚信は途絶えてしまう。
海中からは虚しく、ルアーだけが浮かびあがるのだった。





yaku氏の方を向いて、精一杯に笑っておどける自身だったが。
両足はガクガクと震えていた。
しばし、呆然と立ちすくむのみ。
「今のは何だったのか?」 それが、全く飲み込めないでいた。












気持ちを整理出来ぬまま、それでもキャストを再開する。



時合は長くはないだろう。
このままでは終わってしまう。
そう思い、再び拳に力を込めた。




沖から追わせてきて、フィーディングポイントと思われるところで小さく飛沫が上がる!

しかし、それでも喰いきれていない。
パシャ、パシャっと出て、もう一度、喰わせに臨んだ。
そして、ガツンっとヒット!
最高の瞬間である。





「ヒット!」 と雄叫び、フッキングを入れて浮かせようとした刹那であった。



海面を突き破る巨大なその姿。





まさに、映画 「JAWS」 のワンシーンさながらであった。

あまりの迫力に私も氏も自然と叫んでいる。











下から突き上げてきて。

グルグルと回転しながら宙を舞い、ハマチを吹き飛ばしてしまった。

そして、それを丸飲みして喰らう。








やめてくれ・・・。

そう言って、ベールを返してラインを少し出す。

後は、暴威に身構えるのみなのだ。















また、今回もやってしまった。

凄まじい音をたてるソルティガ。

みるみる内に、スプールは痩せ細って行ってしまう。
すぐには切れない。
そんな、ラインシステムだからどうしようもないのだ。








今回もまた相手が悪すぎた。

おそらく、50や60といった目方ではないのだろう。
最後まで、完全には止める事が出来なかった。
止まっても、また、ジリジリと出され続けるのだった。
最後には、メインからのブレイクとなる。
瀬ズレではなさそうなので、どこかに傷でも入っていたかも知れない。








これにて、私のメンタルは一気に崩壊へと向かった。


スプールを交換して再び挑むも。
リトリーブスピードが大きく変わり、その速さを手だけで追うのが辛い。

アタリのルアーを失くしてしまい、思う様に動かす事も出来ないのであった。
それでも、キャストを続けたが魚からの反応は一切ない。
yaku氏もプツリと途絶えてしまった様であった。



とうとう、自身は耐えられなくなって納竿を決意する。
「もう少しかなぁ」 と言ってみえた氏。
話す二人の前に突如、ナブラが立った。
即座に氏が駆け寄る!







「ヒット!」







そういって、スルスルと魚を取り込まれて行った。

「ツバスでしたわぁ~」 と微笑む氏。


キッチリとナブラを攻略されるのが流石である。
そして、この一本がとても大切だと思った。
サイズではないのだ。













磯からあがり、氏とはそこでお別れとなった。

私は疲れてしまった。

からだも気持ちもヘトヘトな感じ。
木陰へと車を停めて眠る。
3時間、4時間と時間だけが無駄に流れて行った。
結局、この日、再び磯へとおりる事は無かったのだ。










後編へとつづく




それでは