前回の釣行後すぐの事です。
Taka氏より 「来週行くぞ!」 とのご命令が下りました。
仕事を一段落つかれた彼でしたが、どうやら、いけないスイッチが入ってしまったご様子。
元来、この私よりもずっと釣りへの情熱は深く、熱い氏でありますので。
それは、当然と言えば当然の事かも知れません。
断ると怖いので 「はい、是非、お供させて頂きます」 とご返事させて頂きました。
初日の朝のポイントは、自身がどうにも気になっている場所とさせて頂いた。
前回、苦渋の想いを味わったポイントに、氏はリベンジを望みたい様子であった。
そこはそう、ちょっとした 「磯の先輩」 気取りでそれを一掃するのだ。
冒険こそなのだよ、Taka君!!
ふふふ~っと

未明より向かったのは、おそらく、数年ぶりとなる磯であった。
以前、あまりの腹立たしさに激震した磯である。
昔から読んでいて下さる方の中には、あぁ、あそこかと思って頂ける方もみえるだろう。
そこを選んだ基準とは何か?
潮と水温と、不可思議な予感である。
私なりの理論というか、感覚があるのは確かなのだが。
いざ、それを言葉にしようとしても難しいのだ。
気になる磯には行ってみるしかない。
例え、それがハズレであったとしても。
「何を」 読み間違えたかを考える事が出来るのだから。
いつもいつも、誰かが見つけて来た魚を狙っていては、いつしか、その情熱も冷めてしまうのではないだろうか。
素晴らしい釣りなのだから、身体がいう事を聞いてくれる内は長く、楽しく続けたいものである。
だからこそ、私は遠回りをする。
他人から馬鹿と言われようが関係ない。
現場に到着して、眠け眼で道具を準備して行った。
「Taka君、あの淀みを見てみて!」
左右から急流が当て、不思議と淀むその一点に目が釘付けになる。
そんな事を言っていると、途端に何かの魚が宙を舞った。
淀みには、えもいわれぬ生命感が躍動する。
「一番に投げるなら、きっとアソコかも知れないね!」
そんな事を言ってたろうか。
やがて、その時が来る。
いよいよの頃となって。
Taka氏は一点を見つめ動かない。
自身はキャスト態勢に入っていた。
どうしたのか?
Taka氏のリールに 「マイナートラブル」 が発生したのであった。
まさかではあるが、サブのそれにまで同じ症状が垣間見れるとの事。
以前、自身も同様のトラブルにて釣りを放棄せざるを得なかった。
とはいえ、必要以上に多くを伝える訳には行かないのだ。
一見、不親切に思えるが、きっと、それは違う。
苦渋を味わい、それを痛感し。
自分で、それが 「何故?」 と考えねば発展はないだろう。
複雑ではあるが、自身は独りその場に立った。
そして、気になる一点に狙いを絞ったのである。
未明のその瞬間、結んだミノーをひったくる奴があった。
この日、自身が持って来たロッドは私にとって初めてのそれであった。
バット部分は、レイジングブルよりはるかに太く、ガイドの数もよりいっそう多い。
12フィートのそれに、新たな希望とチャンスを見出して購入したものであった。
正直に告白する。
慣れないそれでのヒットは、すぐには、感覚として分からなかったのだ。
リールが巻けなくなって、穂先がバタバタと軋んでいる。
そうして、やっと、その違和感を感じるに至ったのである。
おそらく、まったく遅れてしまった。
ビックリ合わせを入れた時には魚は既に反転していたろう。
そして飛ぶ。
不慣れな感覚は道具だけではなかった。
なんと、ソイツはエラ洗いしたのである。
それは、ヒラスズキであった。
穏やかな一日の幕開けには、およそ、似つかわしくない魚であろうか。
波もサラシもシモリも無い、ただの流れの中での事だった。
それも、一匹、二匹の話ではないのだ。
ボイル、ジャンプの数から、それが群れだという事を知る。
初めての経験であった。
氏が戻り、先程までの状況をお伝えする。
そこから、Taka氏の釣りが始まるのであった。
ヒラの乱舞はもうすでに終わっている。
ならばと、青物一本勝負である。
互いに信じるルアーを放つのだった。
私が信じるそれは、この、激流の中ではおよそ魅力的に泳がせる事が出来ない。
氏の投げる、いくつかのルアー達。
私から見て、それらは、生きている魚にしか見えなかった。
天敵から逃げ惑い、必死になって水から遠ざかろうと宙を舞う小魚。
まさしく、それにしか見えなかったのである。
失敗談をあえて述べさせて頂いたのだが、それにはまた別の意味がある。
数多くの方と釣り座を共にしてきた自身だが。
Taka氏ほど、驚く様な動きを繰り出す方と出会った事は無いに等しい。
勿論、上には上がいる事は充分に承知している。
いつも、投げながら海の変化を探しているのであるが。
今まで、何度となく、彼のルアーが 「本物」 の魚だろうと誤認した。
私には到底及ばない、天性の領域であると思う。
そこなのだと思う。
要するに腕が違うのだ。
ヒットが無かったのは、岸から届く範囲に我々の魚が寄らなかっただけだろう。
流れに潜むヒラは想定外だったが、その後、沖にて海面の爆発が一度だけあった。
どえらい奴がそこに到達し、本気で餌を襲った瞬間を見たのである。
そこに生命感はあった。
フィッシュイーターがやって来る 「条件」 がちゃんと存在し得た。
釣れなかったが、自身の読みは、まったくの間違いではなかった。
私はそれだけで満足だ。
氏はそうではないかも知れない。
しかし、彼はちゃんと分かる人だ。
届かないその場所に見切りをつけ、次なる候補地へと向かう二人であった。
再度の出撃を前に、Taka氏は自身の道具をしっかりと見つめて行った。
私はそれを喜んで待つ事にした。
我々が勝手に定義した、マズメなどは無意味である事を知っている故である。
まず、しっかりと魚に向かえる様に整える事。
この時、それが一番の要だと思った。
何度もしつこいが、食物連鎖は釣り人の時間配分ではないのだ。
真昼間でもあるし、そこは大勢の方に騙されないでと言いたいところである。
車にて、何か所かを回って海を伺った。
もちろん、そこに自身のエゴは無い。
氏と考え、相談しながら狙いを絞る。
決めた場所は深場の磯の先端であった。
思う様にいかないのが、もしかすれば、この磯の釣りだろうか。
さんざん、天気予報や潮などを考慮して挑んだはずだったのである。
出発地点、そして、道中も何も変わりは無かった。
やがて、釣り座へと続くその道で強烈な違和感を感じるのであった。
今しがたより。
有り得ない程の急さで。
信じられない強風が吹きぬけて行く。
まさに、自然が猛威を振るった瞬間なのだろう。
道具を紐解いた時には、最早、手を使わずに立っている事が出来ないのであった。
そこからの釣りは、あまりの事に、二人して笑う他無かったのである。
とっくの前に限界は超えていた。
ならばもう、安全を確保しつつ、ただ笑うしかないのである。
これは 「いけない海」 なのだ。
その時、アカンやつだと何度となく言い合った。
釣り不能。
しかし、その海に、魚の静かな息吹を感じずにはいられなかった。
この、春の嵐がいつまで続くかは分からない。
しかし、今はその勝負の時ではない。
何かを信じて磯をあとにした。
その後、朝の磯に再び向かう事とした。
陽が沈む頃の、流れの中のヒラを見届けたかった。
午後の、青物の回遊が無いかの調査でもあった。
撃沈とあいなったが、それなりに我々の答え合わせと、データの蓄積は叶ったのである。
半遠征として来ている我々だが。
釣りはハレの日ではないのだ。
釣れたら嬉しいが、釣果が全ての喜びではないと思っている。
少しずつ、少しずつ、自分の尺度にて魚を探す事。
そして、釣りのフォーカスを絞り合わせて行く事。
その為ならば、何度、釣果なしの日々が続こうと、再び釣りに向かうだろう。
それが我々のロックンロールなのだ。
二日目に挑む。
後編へ続く。