10月19日の日記
前回の単独での釣行後、しばし悩む事となる。
通い込む事が、自由に出来た今までとは違うのだ。
たとえ釣れなくとも、自身の足で見てきた事は、地味ではあったが次につながるものであった。
ここ最近、自力での釣行が難しい為、自然と次を考えない様にしていた自分がいる。
現場で感じ、見てきた事、また、自身が頼りにしている幾つかのデータ等。
それらをゴチャ混ぜにして、何かを見出すといった事を止めてしまっていたのだ。
しかし、今回、あえて考えてみる事にした。
次があるかどうかは分からない。
しかしながら、きっとその答え合わせは出来る事だろう。
今の私には、素晴らしいショアマンの友人達がいるのだから。
この時、単純に感じたのは、今は南紀ではないというものであった。
誤解の無い様に言うと、限られた休日に向かうしかない、「私」、にとってはとの意味である。
海も、そして青物も、とても、私には読む事は出来ない。
毎日、通う事が出来るアングラーの五感には程遠いものだ。
遠征など出来る訳もない私が注目したのは、我が故郷の三重の地であった。
おそらく、気のせいだろうか・・・。
夏の終わり頃から良い潮が当たっている風にも思える。
全く、まっとうな理由など無いが、今年は過去4年の憂いを払いのける海であると信じている。
それは、三重だけでなく、南紀もまたそうであると考える。
ともかく、この三重の地に照準を絞って行ったのである。
三重の磯は誰にでも優しくはない。
山を幾つも越え、原生林の道なき道を行く場所も多くある。
また、登山用の本格的な道具を用いなければ降りられない場所もある。
何か所か行った事があるが、私にはとても辛く、危険であると感じた。
そんな、磯へのルートですら、ベテラン曰く、最もエントリーしやすい場所の一つであるとの事であった。
今回、自身が必要としたのは、「水深」、である。
ともかく、好きなジグの釣りをやりきりたいと思ったのだ。
よって、まだ、自身が立った事の無い磯に着目して行くのだった。
先輩方に、少しだけアドバイスを頂く事にした。
詳しいルートはさておき、近隣の住民、漁業関係者の方々に迷惑とならない駐車場所を知りたかったのだ。
すぐに、その場の最善の駐車スペースを教えて頂いた。
そしてまた、初めて向かうには危険すぎる事を告げられたのである。
しかし、一度思い立ったら諦める事が難しい性格の私。
それを知ってか否か、ある先輩から連絡を頂くのだった。
全くの奇遇であるが、その方も釣行を予定しているとの事。
しかし、私にはまだ、出撃出来る見込みは無い。
悩んでいる頃、Taka氏より連絡を頂いた。
その内容とは、彼もまた三重の磯に立ってみたいとのもの。
仕事を調整して、私の休みに合わせて頂けるとの事であった。
こうして文章にするととても照れくさいのだが、私は本当に幸せであると感じるのです。
こんな身勝手で難しい人間であるにも関わらず、何人もの本気の男たちが気にとめて下さっている。
Taka氏へのご返事と共に、先輩に連絡するのでした。
我々も出撃しますと。
釣友のご厚意により今回のRock'n'Rollが始まります。
午前1時過ぎに到着する。
寝ないとしんどい、それは勿論分かってはいるのだ。
しかし、海を見ていると、その甘い誘惑が惑わすのである。
少しだけと、糸を結ぶ二人であった。
季節である、軟体生物の捕獲に竿を振るのである(笑)
しかし、雰囲気とは違い、全くの不振であった。
ここはそう、私がエギングの修行の為に何度も訪れた地であった。
しかしこの時、我流ではあるが経験を重ねた誘いには全く反応を見せる事は無かった。
潔くも諦め、今から向かう磯に意識を高めるのだった。
装備を整えながらその時を待つ二人であった。
するとすぐに、見慣れた車のシルエットが暗闇に浮かび上がる。
先輩のものであった。
Taka氏とは初対面でいらっしゃるので、まず軽く自己紹介をさせて頂いた。
ご挨拶をさせて頂いている内に、すぐに先輩は準備を整えられている。
いつもながら感心させられるのである。
ほどなくして三人は山に向かった。
まだ辺りは真っ暗な闇に包まれている。
午前4時50分頃の事だった。
山に分け入ってすぐ、実は今回の釣行を少し後悔した。
僅か数メーター進んだだけなのだが、急な勾配にすぐに息が上がってしまったのだ。
おそらく、強靭な肉体を持っている、Taka氏には何の事はないはずである。
ゼイゼイいいながら登る内に、会話さえもおっくうになるほどだった。
人が一人、やっと通れる程の道を行く。
それは、かろうじて道と呼べる程度のものであった。
ヘッドランプの灯りは狭い範囲のみを照らし出す。
落ち葉が堆積し、とても滑りやすいのだった。
暗くてよくは見えないのだが、もし、滑り落ちたならば、ただでは済まないだろう。
一歩、また一歩と、耐油長靴の足もとを確かめながら進むのだった。
全く同じに見える景色をみていると、いつまで続くのだろうと不安になった。
あるのは歪な形の木の根、生い茂る草木、そして土と落ち葉だけである。
すると急にその景色が変わった。
足もとに、いつもの見慣れた岩肌が見えて来たのである。
おそらく、もうすぐ磯に出る。
そう思い少し安堵するのだった。
しかし、その思いはすぐに打ち消されて行く。
ゴロゴロした岩が埋まる坂道をよじ登って足がすくんだ。
暗闇のすぐ先に、断崖と急斜面が照らし出されたのであった。
そこからの一歩は更に慎重となった。
ミスは絶対に許されないのである。
ここで、先輩から進み方を教わる事となった。
とても丁寧に、本当に細かく指示を頂いたのである。
その通り、ゆっくりと確実に足を踏み出して行った。
おそらく、先輩がいなければ、恐怖で立ち尽くしていたかもしれなかった。
やがて、釣り座となる先端付近に到着して、やっと生きた心地がしてくるのだった。
自身にとっては、ほぼ限界と言えるハードな道のりだったのだろう。
いつもは、かなり時間が経過してからやって来る、筋肉痛がすでに起きているのだ。
暗闇での慣れない山歩きに、おそらく変に力が入ってしまったのも理由だろう。
しかし、何と言うか、猛烈に清々しい気分なのである!
薄明りの中で広がる海、景色が素晴らしい。
朝の冷気を帯びた風が、キンっと頬を撫でて行く。
これからの釣りに心躍るのだが、この時、すでに心は半ば満足しているのだった。
この感覚はとても新鮮なものであった。
否、おそらく、昔感じたあの感動かもしれなかった。
更に明るくなるまでの間、しばし談笑となった。
今日の予報は、北東の風4~7メーター程度、波高は次第に、4メーター、ウネリを伴うとの事。
おそらく、相当に足下から水深があるのだろうか、時化ともいえる状況でさえ、波の音はそれほどではない。
やがて、空が白々して来た頃、各人が組みあげたタックルを持って立ち位置に向かった。
先輩は暗い内には、ヒラを狙ってみると、足早にどこかに向かわれてしまった。
明るくなってきて、更にはっきりと見える様になると、改めて足場が高い事に戸惑ってしまう。
高所恐怖症ぎみの私は、高く、滑りやすい岩の上でフルキャストする事が出来ないのだ。
波の方向は目の前からであり、時折、大きく海面が盛り上がると強く岩に打ちつける。
波飛沫が高くまで上がり、磯の上に降り注いで行った。
薄っすらと苔がはえていて、濡れた靴底ではズルっと滑ってしまう。
バランスを崩さない様、慎重にファーストキャストを撃った。
まず、結んだのはお気に入りのポッパーである。
しかし、どうした事か、その大きいカップ部分はまるで水を噛まない。
弱シンキングの調整を与えてあるのだが、少し間を置いた位では全く沈もうとはしないのだった。
足場の高さに加え、強い横風が吹きつけているからだろう。
その後、すぐに、40グラム以上ある、12センチ程度のシンキングペンシルに換えてみる。
いつもの南紀のポイントであれば、数秒おけば約2メーター程度まで沈むものだ。
しかし、一向に沈み行く気配が無い。
ならばと、表層を速いテンポで引こうかと試みるも、風にラインを取られ、水面を滑って行ってしまうのである。
今度は、シンキングミノーを結んでみた。
しかし、複雑な潮流のせいで、全く泳がないのである。
せっかくのチャンスタイムに、噛み合うルアーが見つからない!
それでも騙し騙し、何とか試行錯誤して引いてみる。
すると、今度はルアーの回収に悩む事になった。
高い足場は問題ないのだが、足下の岩が斜めに海中に入っているのだ。
波のタイミングを見計らうも、時折、ルアーを岩にぶつけてしまう。
殆どルアーは飛ばないし、泳ぐ距離も僅かだ。
手返し良く、キャストを繰り返したいところだが、回収に時間がかかってしまう。
最悪の展開であった。
まったくもって、リズムに乗れないのだった。
気持的にはまだ、プラグの釣りをしていたい。
しかし、潔く、本命のジグに切り替える事にする。
手始めに結んだのは、110グラムのスライドタイプ、ロングジグであった。
まずは試しと投げてみると、やはり風にラインをとられ、なかなか沈もうとはしてくれない。
投げ込みたい潮があるのだが、仕方なく、風に邪魔をされない方向に撃ってみる。
ハッキリとした着底の感触が伝わり、間を置く事なくシャクリ始めてみた。
さすがに水深がある為、とてもしっかりとした抵抗を感じる。
まずは大きく跳ね上げてから、そこから様々なジャークを入れてみる。
何度かそんな事を繰り返していると、良い流れにジグが乗ったのだろうか。
更に、グッとした重みを感じる場所があった。
ここかもと、大きな振りでワンピッチを数回入れてみる。
イメージ的には、ヒラヒラと落としてみようと、その手をしばし止めてみた。
再びシャクろうとした時である。
大きく振り上げようとしたロッドに、全く何の抵抗も感じないのだ。
空を切ると言うのか、まるでスコンっと抜ける様な感覚となった。
おかしいなと、すぐにもう一度シャクってみると、今度は何事も無く、普段通りとなった。
それからしばらく、そんな事が頻繁に起きる様になって行った。
先程、少し止めた時に起きたのだが、その後は連続的にジャークさせている時にも起きる様になった。
浅いのか?と疑い、何度か試す様にやってみる。
すると、着底から僅かの所でも起きるのである。
水深はおそらく、30メーター前後はあろうか。
南紀においても、ほぼ同じ様な深さの場所で、ジグの釣りをして来てはいる。
同じく地磯である。
しかし、こんな感覚は初めてであった。
違う形状のジグに換えてみたが、回数は減ったものの、やはり何度か発生したのだった。
やがて完全に明るくなり、少し休憩を挟みながら釣りを続けた。
二人がいる場所に行ってみたくなり、怖々と磯を歩いて行く。
どこも、波飛沫で濡れていたが、そこだけ少し黒い部分が目に入った。
ここからは投げれない為、海に近いその黒い岩に足を乗せたその時である。
まったく唐突にヌルっと滑った。
今日はいつものスパイクではなく、耐油で来ているのだった。
傍から見たら、太ったおっさんが、朝の磯の上でダンスを踊っている様に見えただろう。
あわや、そのまま海にドボン!しそうになった。
海が違えば、苔も、岩もまた違うのだろう。
慣れた南紀には無い事に、大汗をかいて身で学んだのだった。
その後、潮位も増してきて、風と波も強くなって行った。
先程にも増して、頻繁にドカ波が足元を洗う様になって来る。
っと、ここで先輩より声がかかった。
今回、ご自身の釣りよりも、入門者の我々の安全を最優先に考えて頂いているのだろう。
彼はおっしゃらないが、私にはとてもそう思えたのである。
もっと、じっくりとジグをやりたいが、これ以上、ご心配を頂く訳にはいかない。
ほどなく、後片付けをし、磯を後にしたのだった。
今回、プラグの釣りでは全く、その状況に合わせる事が出来なかった。
南紀の比較的、足場の低い磯に合わせたそれらでは使い物にならなかった。
また、自身の高い足場での経験不足、技術の低さが一番の要因だろう。
回収時に岩にぶつけたルアーを見ると、フックはことごとく丸くなり、リップは折れ、アイも変形していた。
ちゃんと動かせないばかりか、大切なルアー達を傷めてしまったのである。
ショックも大きかったが、経験を積み、いつか上手くなりたいと気持ちを強くするのだった。
勿論、先輩は全く、何の問題も無く釣りをされてみえた。
また、ジグの釣りにおける、あの妙な感覚が気になったので、後日、詳しい方にお聞きしてもみた。
その方曰く、魚によっても、似た様な感覚を感じる事もあるとの事であった。
潮によっても、そうなる事もあるのだという。
ご同行頂いた先輩の見解では、実釣時、かなり強いウネリがあった為、ジグが上方向に持ち上げられたのではないかというもの。
自身の経験では、ジグにて魚信を得る事は、ほぼ全てがヒットである。
いきなり、ガツン!っと来るか、ゴツゴツっと来るか、もしくはフォール中にラインが走ったり止まったりだった。
僅かばかり、フワっとなった事もあるが、それはほぼ足下、水深10メーター強の場所である。
水深がたっぷりあり、斜めに引いて来る様な状況ではない。
もし、魚であれば嬉しいが、やはりウネリや波、風のせいだったかと思う事にした。
何故なら、掛けれなかった事が悔しいからであり、何故、掛からないか余計に複雑で難解になるからだ。
しかし、魚の可能性はゼロではない。
そして、その感覚を、いくら人に言葉で伝えようにも、その方が実際に経験しないと分からないだろう。
わざと回りクドク書いてみたが、要するに何度も経験しなさいという事だ。
そう、それは自身に言い聞かせている。
増々、ジグの釣りが面白くなって行く。
たまらないっ
それでは
前回の単独での釣行後、しばし悩む事となる。
通い込む事が、自由に出来た今までとは違うのだ。
たとえ釣れなくとも、自身の足で見てきた事は、地味ではあったが次につながるものであった。
ここ最近、自力での釣行が難しい為、自然と次を考えない様にしていた自分がいる。
現場で感じ、見てきた事、また、自身が頼りにしている幾つかのデータ等。
それらをゴチャ混ぜにして、何かを見出すといった事を止めてしまっていたのだ。
しかし、今回、あえて考えてみる事にした。
次があるかどうかは分からない。
しかしながら、きっとその答え合わせは出来る事だろう。
今の私には、素晴らしいショアマンの友人達がいるのだから。
この時、単純に感じたのは、今は南紀ではないというものであった。
誤解の無い様に言うと、限られた休日に向かうしかない、「私」、にとってはとの意味である。
海も、そして青物も、とても、私には読む事は出来ない。
毎日、通う事が出来るアングラーの五感には程遠いものだ。
遠征など出来る訳もない私が注目したのは、我が故郷の三重の地であった。
おそらく、気のせいだろうか・・・。
夏の終わり頃から良い潮が当たっている風にも思える。
全く、まっとうな理由など無いが、今年は過去4年の憂いを払いのける海であると信じている。
それは、三重だけでなく、南紀もまたそうであると考える。
ともかく、この三重の地に照準を絞って行ったのである。
三重の磯は誰にでも優しくはない。
山を幾つも越え、原生林の道なき道を行く場所も多くある。
また、登山用の本格的な道具を用いなければ降りられない場所もある。
何か所か行った事があるが、私にはとても辛く、危険であると感じた。
そんな、磯へのルートですら、ベテラン曰く、最もエントリーしやすい場所の一つであるとの事であった。
今回、自身が必要としたのは、「水深」、である。
ともかく、好きなジグの釣りをやりきりたいと思ったのだ。
よって、まだ、自身が立った事の無い磯に着目して行くのだった。
先輩方に、少しだけアドバイスを頂く事にした。
詳しいルートはさておき、近隣の住民、漁業関係者の方々に迷惑とならない駐車場所を知りたかったのだ。
すぐに、その場の最善の駐車スペースを教えて頂いた。
そしてまた、初めて向かうには危険すぎる事を告げられたのである。
しかし、一度思い立ったら諦める事が難しい性格の私。
それを知ってか否か、ある先輩から連絡を頂くのだった。
全くの奇遇であるが、その方も釣行を予定しているとの事。
しかし、私にはまだ、出撃出来る見込みは無い。
悩んでいる頃、Taka氏より連絡を頂いた。
その内容とは、彼もまた三重の磯に立ってみたいとのもの。
仕事を調整して、私の休みに合わせて頂けるとの事であった。
こうして文章にするととても照れくさいのだが、私は本当に幸せであると感じるのです。
こんな身勝手で難しい人間であるにも関わらず、何人もの本気の男たちが気にとめて下さっている。
Taka氏へのご返事と共に、先輩に連絡するのでした。
我々も出撃しますと。
釣友のご厚意により今回のRock'n'Rollが始まります。
午前1時過ぎに到着する。
寝ないとしんどい、それは勿論分かってはいるのだ。
しかし、海を見ていると、その甘い誘惑が惑わすのである。
少しだけと、糸を結ぶ二人であった。
季節である、軟体生物の捕獲に竿を振るのである(笑)
しかし、雰囲気とは違い、全くの不振であった。
ここはそう、私がエギングの修行の為に何度も訪れた地であった。
しかしこの時、我流ではあるが経験を重ねた誘いには全く反応を見せる事は無かった。
潔くも諦め、今から向かう磯に意識を高めるのだった。
装備を整えながらその時を待つ二人であった。
するとすぐに、見慣れた車のシルエットが暗闇に浮かび上がる。
先輩のものであった。
Taka氏とは初対面でいらっしゃるので、まず軽く自己紹介をさせて頂いた。
ご挨拶をさせて頂いている内に、すぐに先輩は準備を整えられている。
いつもながら感心させられるのである。
ほどなくして三人は山に向かった。
まだ辺りは真っ暗な闇に包まれている。
午前4時50分頃の事だった。
山に分け入ってすぐ、実は今回の釣行を少し後悔した。
僅か数メーター進んだだけなのだが、急な勾配にすぐに息が上がってしまったのだ。
おそらく、強靭な肉体を持っている、Taka氏には何の事はないはずである。
ゼイゼイいいながら登る内に、会話さえもおっくうになるほどだった。
人が一人、やっと通れる程の道を行く。
それは、かろうじて道と呼べる程度のものであった。
ヘッドランプの灯りは狭い範囲のみを照らし出す。
落ち葉が堆積し、とても滑りやすいのだった。
暗くてよくは見えないのだが、もし、滑り落ちたならば、ただでは済まないだろう。
一歩、また一歩と、耐油長靴の足もとを確かめながら進むのだった。
全く同じに見える景色をみていると、いつまで続くのだろうと不安になった。
あるのは歪な形の木の根、生い茂る草木、そして土と落ち葉だけである。
すると急にその景色が変わった。
足もとに、いつもの見慣れた岩肌が見えて来たのである。
おそらく、もうすぐ磯に出る。
そう思い少し安堵するのだった。
しかし、その思いはすぐに打ち消されて行く。
ゴロゴロした岩が埋まる坂道をよじ登って足がすくんだ。
暗闇のすぐ先に、断崖と急斜面が照らし出されたのであった。
そこからの一歩は更に慎重となった。
ミスは絶対に許されないのである。
ここで、先輩から進み方を教わる事となった。
とても丁寧に、本当に細かく指示を頂いたのである。
その通り、ゆっくりと確実に足を踏み出して行った。
おそらく、先輩がいなければ、恐怖で立ち尽くしていたかもしれなかった。
やがて、釣り座となる先端付近に到着して、やっと生きた心地がしてくるのだった。
自身にとっては、ほぼ限界と言えるハードな道のりだったのだろう。
いつもは、かなり時間が経過してからやって来る、筋肉痛がすでに起きているのだ。
暗闇での慣れない山歩きに、おそらく変に力が入ってしまったのも理由だろう。
しかし、何と言うか、猛烈に清々しい気分なのである!
薄明りの中で広がる海、景色が素晴らしい。
朝の冷気を帯びた風が、キンっと頬を撫でて行く。
これからの釣りに心躍るのだが、この時、すでに心は半ば満足しているのだった。
この感覚はとても新鮮なものであった。
否、おそらく、昔感じたあの感動かもしれなかった。
更に明るくなるまでの間、しばし談笑となった。
今日の予報は、北東の風4~7メーター程度、波高は次第に、4メーター、ウネリを伴うとの事。
おそらく、相当に足下から水深があるのだろうか、時化ともいえる状況でさえ、波の音はそれほどではない。
やがて、空が白々して来た頃、各人が組みあげたタックルを持って立ち位置に向かった。
先輩は暗い内には、ヒラを狙ってみると、足早にどこかに向かわれてしまった。
明るくなってきて、更にはっきりと見える様になると、改めて足場が高い事に戸惑ってしまう。
高所恐怖症ぎみの私は、高く、滑りやすい岩の上でフルキャストする事が出来ないのだ。
波の方向は目の前からであり、時折、大きく海面が盛り上がると強く岩に打ちつける。
波飛沫が高くまで上がり、磯の上に降り注いで行った。
薄っすらと苔がはえていて、濡れた靴底ではズルっと滑ってしまう。
バランスを崩さない様、慎重にファーストキャストを撃った。
まず、結んだのはお気に入りのポッパーである。
しかし、どうした事か、その大きいカップ部分はまるで水を噛まない。
弱シンキングの調整を与えてあるのだが、少し間を置いた位では全く沈もうとはしないのだった。
足場の高さに加え、強い横風が吹きつけているからだろう。
その後、すぐに、40グラム以上ある、12センチ程度のシンキングペンシルに換えてみる。
いつもの南紀のポイントであれば、数秒おけば約2メーター程度まで沈むものだ。
しかし、一向に沈み行く気配が無い。
ならばと、表層を速いテンポで引こうかと試みるも、風にラインを取られ、水面を滑って行ってしまうのである。
今度は、シンキングミノーを結んでみた。
しかし、複雑な潮流のせいで、全く泳がないのである。
せっかくのチャンスタイムに、噛み合うルアーが見つからない!
それでも騙し騙し、何とか試行錯誤して引いてみる。
すると、今度はルアーの回収に悩む事になった。
高い足場は問題ないのだが、足下の岩が斜めに海中に入っているのだ。
波のタイミングを見計らうも、時折、ルアーを岩にぶつけてしまう。
殆どルアーは飛ばないし、泳ぐ距離も僅かだ。
手返し良く、キャストを繰り返したいところだが、回収に時間がかかってしまう。
最悪の展開であった。
まったくもって、リズムに乗れないのだった。
気持的にはまだ、プラグの釣りをしていたい。
しかし、潔く、本命のジグに切り替える事にする。
手始めに結んだのは、110グラムのスライドタイプ、ロングジグであった。
まずは試しと投げてみると、やはり風にラインをとられ、なかなか沈もうとはしてくれない。
投げ込みたい潮があるのだが、仕方なく、風に邪魔をされない方向に撃ってみる。
ハッキリとした着底の感触が伝わり、間を置く事なくシャクリ始めてみた。
さすがに水深がある為、とてもしっかりとした抵抗を感じる。
まずは大きく跳ね上げてから、そこから様々なジャークを入れてみる。
何度かそんな事を繰り返していると、良い流れにジグが乗ったのだろうか。
更に、グッとした重みを感じる場所があった。
ここかもと、大きな振りでワンピッチを数回入れてみる。
イメージ的には、ヒラヒラと落としてみようと、その手をしばし止めてみた。
再びシャクろうとした時である。
大きく振り上げようとしたロッドに、全く何の抵抗も感じないのだ。
空を切ると言うのか、まるでスコンっと抜ける様な感覚となった。
おかしいなと、すぐにもう一度シャクってみると、今度は何事も無く、普段通りとなった。
それからしばらく、そんな事が頻繁に起きる様になって行った。
先程、少し止めた時に起きたのだが、その後は連続的にジャークさせている時にも起きる様になった。
浅いのか?と疑い、何度か試す様にやってみる。
すると、着底から僅かの所でも起きるのである。
水深はおそらく、30メーター前後はあろうか。
南紀においても、ほぼ同じ様な深さの場所で、ジグの釣りをして来てはいる。
同じく地磯である。
しかし、こんな感覚は初めてであった。
違う形状のジグに換えてみたが、回数は減ったものの、やはり何度か発生したのだった。
やがて完全に明るくなり、少し休憩を挟みながら釣りを続けた。
二人がいる場所に行ってみたくなり、怖々と磯を歩いて行く。
どこも、波飛沫で濡れていたが、そこだけ少し黒い部分が目に入った。
ここからは投げれない為、海に近いその黒い岩に足を乗せたその時である。
まったく唐突にヌルっと滑った。
今日はいつものスパイクではなく、耐油で来ているのだった。
傍から見たら、太ったおっさんが、朝の磯の上でダンスを踊っている様に見えただろう。
あわや、そのまま海にドボン!しそうになった。
海が違えば、苔も、岩もまた違うのだろう。
慣れた南紀には無い事に、大汗をかいて身で学んだのだった。
その後、潮位も増してきて、風と波も強くなって行った。
先程にも増して、頻繁にドカ波が足元を洗う様になって来る。
っと、ここで先輩より声がかかった。
今回、ご自身の釣りよりも、入門者の我々の安全を最優先に考えて頂いているのだろう。
彼はおっしゃらないが、私にはとてもそう思えたのである。
もっと、じっくりとジグをやりたいが、これ以上、ご心配を頂く訳にはいかない。
ほどなく、後片付けをし、磯を後にしたのだった。
今回、プラグの釣りでは全く、その状況に合わせる事が出来なかった。
南紀の比較的、足場の低い磯に合わせたそれらでは使い物にならなかった。
また、自身の高い足場での経験不足、技術の低さが一番の要因だろう。
回収時に岩にぶつけたルアーを見ると、フックはことごとく丸くなり、リップは折れ、アイも変形していた。
ちゃんと動かせないばかりか、大切なルアー達を傷めてしまったのである。
ショックも大きかったが、経験を積み、いつか上手くなりたいと気持ちを強くするのだった。
勿論、先輩は全く、何の問題も無く釣りをされてみえた。
また、ジグの釣りにおける、あの妙な感覚が気になったので、後日、詳しい方にお聞きしてもみた。
その方曰く、魚によっても、似た様な感覚を感じる事もあるとの事であった。
潮によっても、そうなる事もあるのだという。
ご同行頂いた先輩の見解では、実釣時、かなり強いウネリがあった為、ジグが上方向に持ち上げられたのではないかというもの。
自身の経験では、ジグにて魚信を得る事は、ほぼ全てがヒットである。
いきなり、ガツン!っと来るか、ゴツゴツっと来るか、もしくはフォール中にラインが走ったり止まったりだった。
僅かばかり、フワっとなった事もあるが、それはほぼ足下、水深10メーター強の場所である。
水深がたっぷりあり、斜めに引いて来る様な状況ではない。
もし、魚であれば嬉しいが、やはりウネリや波、風のせいだったかと思う事にした。
何故なら、掛けれなかった事が悔しいからであり、何故、掛からないか余計に複雑で難解になるからだ。
しかし、魚の可能性はゼロではない。
そして、その感覚を、いくら人に言葉で伝えようにも、その方が実際に経験しないと分からないだろう。
わざと回りクドク書いてみたが、要するに何度も経験しなさいという事だ。
そう、それは自身に言い聞かせている。
増々、ジグの釣りが面白くなって行く。
たまらないっ
それでは